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09_8 異論は認めない 姫乃side

last update Last Updated: 2025-08-09 04:55:14

私はただ今、樹くんの家で絶賛正座中だ。というのも、樹くんがめちゃくちゃ怒っているからで……。原因はもちろん先程の早田課長とのことなんだけど。

「はぁ……」

大きなため息に、私は身を小さくする。

「……ごめんなさい」

もうそれしか言葉が出ない。

樹くんは冷たく私を睨む。

「姫乃さんさぁ、もうちょっと危機感持ってって言ったよね?」

「はい」

「俺が見つけなかったら、どうなってたかわかる?」

早田課長にずるずるとラブホテルに連れ込まれて、でも早田課長は休憩するだけだからって言っていたけど。

「……どうなってたんだろう?」

「早田課長にやられるとこだったんだけど。今まで何人早田課長に騙されたか知らないの?」

「やられるって……?」

「はぁ……」

ひときわ大きなため息に、私はこの場から逃げ出したくなった。ダラダラと背中に冷たい汗が流れる。

「早田課長に抱かれるとこだったんだけど!」

「抱かれ……えっ!」

まさか、そんな。

あらぬ想像してみるみる顔に熱が集まるのがわかった。

「だって早田課長、休憩したいって」

「この鈍感! 天然! 箱入り!」

「うっ。そんな言わなくても……」

強い口調に、じわっと涙が浮かんだ。

確かに危機感なくて鈍感だけど、はっきり言われるとやはり傷付く。

「それとも抱かれたかったわけ?」

私は慌てて首を振る。

まさか抱かれたいだなんて、思うわけがない。

「はあ、今まで無傷だったのが奇跡だよね」

「無傷?」

「彼氏がいるって思われてた方が安全だったってこと」

首をかしげる私に、樹くんはビシッと指を立てて言った。
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    そんな。 彼氏がいると思われていた方が安全だなんて、じゃあ私は一生彼氏がいると嘘をつき続けなければいけなくなる。「どうしよう樹くん」思わず袖をつかむと、樹くんは困った顔をした。「そういう可愛い顔して煽ってくるのやめてください」「困ってるの」樹くんは私から視線を外すと、ボソリと呟いた。「こっちが困るっての」「……そうだよね、ごめんね」私はガックリと肩を落とす。 だいたい私は樹くんに頼りすぎなのだ。もっとしっかりしないといけないと思う。思うけれど、ダメ人間な私は解決策がまったく見出だせない。この先どうしたらいいのだろう。「俺が彼氏でいいじゃん」樹くんの発言に私は顔を上げる。「え?」「俺が姫乃さんの彼氏。はい、もう決まり。異論は認めません」「で、でも?」「何? 異論は認めないって言ってるでしょ」樹くんは腕組みをして深いため息をついた。「樹くん迷惑じゃない?」「迷惑じゃない」「だって私年上だし」「関係ない」「鈍感で天然で箱入り、だし」「可愛いんじゃない?」「でも……」「うるさい、もうその口黙らせる」樹くんは不機嫌な顔をしつつ、私をソファに押し倒して唇を塞いだ。息ができないくらいに深く激しい強引なキスに、じわっと涙が浮かぶ。怒られているのか甘やかされているのかわからないこの状態に、頭はまったくついていかない。ようやく唇が解放されると、樹くんは私を見下ろしながら小さく言う。「俺は姫乃さんが好きだから。それだけ」「……うん」とたんに胸がきゅーんと締め付けられ、ただ返事をするので精一杯だった。

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